サッポロビールは1876年の創業期より原料にこだわって、ビール造りを続けてきました。未来のビールを守るため、原料研究の成果の一つとして、2022年春には気候変動に対応できる大麦の発見を正式に発表しました。
今回は入社以来30年以上、一貫して大麦研究を行ってきたサッポロビール原料開発研究所の木原さんに、未来のビールを守るための気候変動に対応する大麦開発についてお話を伺いました。
――木原さんは入社以来、ずっと原料研究をされていると伺いましたが、どのような経歴ですか?
木原:私は九州出身なのですが、1990年にサッポロビールに入社して以来33年間、群馬県太田市にある研究所で大麦の研究と品種開発をしていました。30年以上群馬にいましたが、畑や研究所(実験室)、麦芽を作る製麦工場が敷地内にあって、原料研究の重要な拠点で働けることは全然飽きないですし、楽しかったです。そして今は、北海道上富良野町にある研究所で大麦とホップに囲まれながら、これまで同様の研究を行っています。具体的には「育種」といって、良い性質の原料同士を交配させて、より良い原料を作っています。
――大麦のプロですね。どのような理由で気候変動対応の大麦開発をすることになったのでしょうか。
木原:2010年ころに「10年後の育種を考える会」という研究所内のプロジェクトがありました。そこでは近い将来、環境破壊の観点から肥料が規制される可能性があると議論されていました。当時は、生育環境が変わったとしても10年後にもおいしい高品質なビールを多くのお客様に飲んでもらいたい、そのためには収穫量と品質が良いものはもちろん、環境変化にも対応できる大麦が必要になると考えていました。
木原:2つ目は大麦自体の品質が悪くなってしまうことで、最終的に造られるビールの品質低下も招いてしまいます。
やや専門的な話になりますが、ビールを製造するためには、大麦を加工して麦芽という原料にしなければいけません。加工過程で大麦のタンパク質がアミノ酸に分解され、後々のビール発酵工程に重要になってきます。
しかし、肥料が規制されることで大麦に含まれるタンパク質の量が減ってしまい、アミノ酸も減ってしまう。そうすると発酵不良などビールの品質低下の原因にもなってしまうのです。
そこで我々は「育種」をすることで、肥料規制によってタンパク質の量が少なくなった大麦でもアミノ酸をより多く作り出せる分解効率の良い大麦の開発を目指すことにしました。
――少ないタンパク質から、効率よく多くのアミノ酸を作り出せる大麦を開発しようとしたわけですね。
木原:そうですね。今までも北米系の大麦に分解効率の良い大麦はあったのですが、収穫前に長雨が降ると畑の中で発芽しやすいリスクを抱えていたのです。畑で発芽することを「穂発芽」と呼ぶのですが、本来は大麦を工場で加工して麦芽にするときに発芽させるのに、「穂発芽」してしまうと、その後ビールの製造には使えなくなってしまうのです。
さらに出荷価格の安い飼料として販売するしかなくなり、生産者さんの収入にも大打撃です。
最近は気候変動の影響で極端な天候が増えているので、国内でも2014年に栃木県で23億円の被害が出てしまいました。
そもそも研究を進めたとしてもそういう性質の遺伝子は存在しないのかもしれない。来る日も来る日もいろんな大麦を研究室で分析する日々でした。
プロジェクト開始から研究を始めて2年くらいたったころでしょうか。
600種類以上の大麦を研究してこれ!というのが幸い見つかったのですよ。それは「N68‐411」という名前を付けました。411は、411番目に分析した大麦を意味しています。
木原:実は「N68‐411」が見つかった後の方がはるかに大変でした。
育種は求める性質が子孫にも複数年安定して発揮できるのかを確認する必要があるので、時間をかけて検証していくのです。最初にデータを見た時は、異常値にも見えましたし、次の世代で普通の数値に戻ったらどうしようといつも半信半疑でしたのでつらかったです。
また、これまでにない性質の大麦のため、原料を知り尽くした同僚へ説明して理解を得るのにも苦労しましたね。最初に見つけてから何年も検証を重ねて、ようやく2022年の「降雨量増加への耐性(穂発芽しにくい)と ビールのおいしさ(分解効率がいい)を両立できる大麦を発見」という発表に至りました。
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