ホップはビールの魂~豊かな香りで乾杯をもっとおいしく~
アメリカを中心に始まったクラフトビールブームは、日本も含め全世界中に広がっています。醸造所ごとの個性的な味わいを作るには、「フレーバーホップ」と呼ばれる特徴的な香りを持つホップが欠かせません。
その中で、他にはない個性的な香りをつくるホップとして、世界中の醸造家たちの視線を一身に浴びている「日本生まれのホップ」があります。それが「ソラチエース」です。「ソラチエース」は、北海道の空知郡の地名にちなんだ名前で、サッポロビールが品種化したホップです。しかも、その品種登録は、クラフトビールのブールが始まる以前の1984年、なんと30年以上も前のことです。
私たちが北海道の小さなホップ試験圃場で生み出したソラチエースはその後、はるばるアメリカに渡り、栽培されます。
今では、そのレモングラス、ディルなど様々なハーブに例えられる個性的な香りは、世界中の醸造家を魅了するまでになりました。
サッポロビールのホップ開発は開拓使醸造所の開設(1876年)より前にさかのぼり、1984年にはフラノエースとソラチエースの開発に成功しました。マイルドな香味のフラノエースは当社主力ビール向けに採用された一方、個性的なソラチエースはなかなか活躍の機会に恵まれませんでした。これらのホップは海を渡り、アメリカ・オレゴン州立大のホップ畑で試作され、クラフトビールの注目が飛躍的に高まった2000年代半ば、ワシントン州のホップ農場マネージャーのダレン・ガマシュさんの「鼻」にとまりました。レモン、ハーブ、針葉樹などの香りで、強烈に愛嬌をふりまいていたそうです。世界中のクラフトビール醸造家に大人気のホップ、それが遅咲きのヒロイン「伝説のソラチエース」です。
2年に及ぶ研究によって、ソラチエースには他のホップにはほとんど含まれない「ゲラン酸」という成分が含まれていることがわかりました。
ただし、このゲラン酸、そのものは香りの強い成分ではありません。ゲラン酸だけが高く含まれるビールを飲んでもソラチエース特有の香りにはなりませんでした。
しかし、ホップに由来する他の香り成分(ゲラニオール、リナロールなど)と組み合わさると、ソラチエース特有のレモングラスやディルのような爽やかな香りに変化することが明らかになりました。
また、この結果から、ソラチエースと他のフレーバーホップをブレンドして醸造すると、単に2つのホップをブレンドしただけの香りではなく、これまでにない全く新しい香りを作り出せる可能性も示しました。
サッポロビールのホップ研究の歴史は開拓使麦酒醸造所が設立された明治時代にまで遡ります。現在、日本国内で広く栽培されている「信州早生」という日本独自のホップ品種も、実は、北海道から長野県に送った交配品種の中から選ばれたものとなります。栽培地にちなんで「信州早生」と名がついていますが、そのルーツは北海道にあるのです。それから連綿と続けられてきたホップ研究の中から、「ソラチエース」も生まれてきました。
サッポロビールでは、品種の開発だけでなく、ホップの病害対策やホップの作る香り成分、苦味成分やポリフェノールに関する基礎研究も行なわれています。1980年代にはファインアロマホップの産地であるチェコで発生したウイルス病の被害をウイルスフリー苗の技術で解決するなどその成果はグローバルに活用されてきました。また、近年はフレーバーホップの様々な香りに関する研究でも世界をリードしています。